24巻より。パラレルです。
「誰かが運ばれてきたって!?」
・・うるさい・・・。
「一体なんでこんなコトに!?」
眠らせてくれ・・・。
「バーツ、おい、バーツ!!」
誰だ、俺の名前を呼ぶのは・・・。
!!!???
「グラフ!!!」
聞き覚えのある声に、がばっとバーツははね起きた。
声の持ち主を捜そうと周囲を見回した途端、目眩を起こし思わずベッドへと倒れ込んだ。
「バーツ、大丈夫か?」
ベッドの傍らにいたグラフは心配そうにバーツの顔をのぞき込んだ。
「グラフ・・?俺は夢を見ているのか?ここは・・何処だ?」
バーツは求める人の姿を目にすると、矢継ぎ早に質問を始めた。
「ここは・・・」
「ここはウイルドじゃよ。あんたは村の入り口で倒れていたんじゃ」
グラフのセリフを遮るように、嗄れた声が小さな部屋の中に響いた。
グラフが声の主を振り返り、バーツもそれに習うかのように視線をグラフの向こうへと向けた。
部屋の入り口に杖をついた気むずかしげな老人が立っていた。
「長老・・・・」
グラフがポツリと言った。
「まったく・・けが人が寝ている部屋に騒々しく入るとは何事か!」
長老と呼ばれた人物はグラフを一喝する。
「バーツは俺の・・」
「知り合いならなおさら安静にさせねばならんじゃろう。大人しく外に出ておれ」
弁解をしようとしたグラフの言葉をまたもや遮り、長老は彼を部屋の外へと追い出してしまった。
「何があったかは後で聞かせてもらおう。この薬を飲んでゆっくり眠るのじゃな」
長老から渡された薬をバーツは飲み干し、トロトロと眠りに落ちていった。
トントン、と控えめに部屋のドアがノックされ、そっとグラフが入ってきた。
「バーツ、もう大丈夫か?」
「ああ。心配掛けたな」
元々体力は超人的なバーツ、与えられた薬と十分な休息を取ったことで、すでにベッドから起きあがれるまでに回復していた。
血が足りていないため少々青白い顔色ではあるが、彼の笑顔はいつも通りだった。
「飯、持ってきた。腹減っているんだろう?」
そう言ってグラフがテーブルに置いたトレイには、すぐに血となるような栄養分が含まれている物ばかりが載っていた。
「サンキュ!丁度腹減っててよォ」
目を輝かせて、グラフの持ってきた食事にかぶりつくバーツ。
グラフはバーツと向かい合わせに座り、楽しげにその様子を見ていた。
味付けはバーツの好みに合うようにしてあった。
それは偶然などではなく、グラフが調理する者に頼んでくれたのだろう。
彼の細やかな気配りに心の中で感謝しながら、みるみる平らげていった。
「うっめぇ!腹一杯だ」
全てを食べ終えたバーツはイスの背もたれに完全に身体を預け、僅かに膨らんだ腹をさすった。
グラフは何も言わず、微笑んだままバーツを見つめている。
会話のない時間が暫く続いた頃、バーツが口火を切った。
「グラフ・・。あんたが何故ここにいるんだ?」
「告知状のことはお前も知っているだろう? 俺は東の国でそれを見たんだ。
そして色々調べていくウチに、告知状が指しているのはこの村だと言うことに気付いた。
だから、ファルコンの手がかりを探すためにここに来たんだ」
「俺に会いたくてあと付けてきたんじゃねェのか・・・」
グラフの答えに、バーツはしょんぼりと肩を落とした。
「ンな訳ねえだろォ。お前に逢うのは手がかりを掴んでから、って決めていたのに」
クスクスと笑いながら答えていたグラフだったが、何かを思いだしたのか、真剣な表情を浮かべてバーツを見た。
「それより・・変なヤツがお前を捜していたけど・・そのケガはそいつにやられたのか?」
「変なヤツ?」
「ああ。俺の所にいきなり現れて『ジョン・バーツは何処だ』って・・。」
「あんたの所にも行ってたのか!?ケガは無いか!!?」
グラフのセリフに慌てて席を立った。
「俺は大丈夫。クルー達が庇ってくれたから・・」
バーツの心配を否定したグラフの表情は少し哀しげだった。続く言葉で彼を護るために何人かのクルーが犠牲となってしまったことを知り、バーツの表情も曇る。
「すまねェ・・、あんたまで巻きこんじまったんだな・・」
「ファルコンを目指すなら多少の障害は当たり前だろォ。お前に巻き込まれたなんて思っちゃいねェよ」
グラフは2人の間に流れる重い雰囲気を変えようと、トレイを片づけるために椅子を立った途端バーツに抱き締められた。
「おい、バーツ・・!!??」
バーツのいきなりの行動にグラフは驚いて身を捩った。
「グラフ、あんたは今俺が見ている夢じゃねェよな・・? 頼む・・俺の前からいなくならないでくれ・・・」
そう囁きながら、バーツはグラフを離すまいとするかのように腕の力を僅かに強めた。
「俺は此処にいる。何が有ろうと、いなくなったりしないから・・」
グラフはそう言ってバーツを見上げて微笑むと、彼の頬をそっと撫でた。
その笑顔に、バーツは更に抱き締める力を強くした。
「バーツ、苦しいって・・・」
「あ、悪ィ・・」
微かに漏らしたグラフの声はどことなく嬉しげで。
慌てて力をゆるめるバーツ。満腹感とグラフの温みに気が緩んだのか、一つ大きなあくびをした。
「ほら、けが人は大人しく寝てろって」
グラフはバーツをベッドに押しやると、上着を脱いで自らもバーツの横に潜り込み、彼の頭を自分の胸に押し当てた。
驚き、顔を見つめてくるバーツに
「心臓の音を聞いていると辛いことも忘れてよく眠れるって、昔母さんがよくしてくれたんだ」
にこりと微笑み返し、グラフは目を閉じた。
何があったのかと聞かないグラフの心遣いが嬉しかった。
彼は自分が愛用の双剣ではなく一振りの大剣を持っていたことで、自分になにが起きたかを見抜いているのだろう。
先日グラフとは違う意味の自らの分身を手に入れ、そして失った。
身体の一部を失ってしまったような喪失感は、今傍らにいる魂の半身が癒してくれている。
目を覚ませばきっと元の自分に戻っているだろう。
そしてこの優しい半身を護るためならば、これから先に立ちふさがるであろうどんな困難にでも立ち向かって行ける。
そう思いながらバーツは目を閉じ、グラフの鼓動を感じつつまどろんでいった。
END
オルカとバーツが「パートナー」という立場になったことに
ショックを受けて書いた物です。
(オルカがパートナーだったら、バーツにとってグラフの
立場って何!?って思ってしまったのですよ……(苦笑)
オルカが死んで次のチャンピオンが出るまでの間に
書いたので、話は見事に嘘っぱちですw