「出かけてくる」
「村に下りるの?一緒に行きましょうか?」
「大丈夫だ。散歩がてら港へ行くだけだから」
「港へ…? 気をつけていってらっしゃい」

村はずれにある、小さな港。
この島の住人となったあの日以来、訪れることのなかった場所。
数年ぶりに足を運んだのは、妻となった女性と交わした、ある会話の為。

――ねェ、ジョン。
――ン?
――今日、村でこの島に伝わる言い伝えを聞いたんだけど---

――言い伝え?
――ええ。願いを書いた羊皮紙を小瓶に入れて海に流すの。
そうすれば、願いはいつか叶う、って。
――へェ・・。面白い話だな。
――ジョンは叶えたい願い事なんてある?
――俺か? ……俺にはないなあ。動力石もこの目で見たし、お前と一緒になることも出来たし。
それに、叶えたい願いなんてものがあるのなら、言い伝えに頼らず、自分の力で叶えて見せるからな。
――そうね。あなたならそうするでしょう。

そう言って互いに笑い合った、あのときの言葉に嘘は無い。
追い求めたファルコンの遺産。
たどり着いた先にあった物をこの眼で見、それを追うのは次代へ託した。
陸へと上がり、愛する女と過ごしていく。
己で決めた生き方のまま、幸せな日々を送っているはずだというのに……
自らで断ち切った絆への悔恨の念が、胸の片隅でいつまでもくすぶり続けている。


大海原を駆け、伝説を追い求めていたあのころ。
いつもカモにしていたけれど、信頼するに値する男がいた。
共に過ごすクルーより、慕ってくれる幼子より、愛した女より……
誰よりも近くあったあの男と、袂を分かったあの日。
海賊を辞める、と言った俺に、寂しげな表情を浮かべたのも一瞬。
「元気でな」
と彼は笑って右手を差し出した。
その手を握り返したことが過ちだったと気づいたのは今更か。

手の中にある小さな瓶。
母なる海に俺の想いを届けてもらえるように、
2つに折りたまれた粗末な羊皮紙の入ったそれを、力の限り放り投げた。


水平線へと消えていく小瓶に託すのは、
ささやかな願いと微かな後悔。


遺跡の後遺症で衰える一方のこの躯。
我が身を委ねる船もない。
それでも。


もしもまた海に出られたならば。

また、好敵手としてありたい――――
  


FIN


ボーカロイドの「リグレット・メッセージ」
を元ネタに書いてみました。
いつもグラフ視点でばっかり書いてるよな〜と
思いまして、今回はバーツ視点でございます。
ほんのり腐ぽい気がしないでもありませんが、
ノーマルです、ええ(苦笑