ラーアジノヴのとある街。
 この街の一角にある寂れた酒場に、キャプテングラフがいた。
「海賊クロウバード、キャプテングラフだぞ〜〜♪」
 先ほどから上機嫌で自作の歌を歌っていたりする。
 飲めないくせに好奇心でバーボンを頼み、一気のみしてしまったのだ。だれがどう見たって、完璧に出来上がっていた。
 そしてグラフの傍らには、いつも一緒の副長2人の姿もあった。
「ねぇ、おかわりちょうだい〜〜〜」
「ダメですよ!!」
「もう帰りましょう、ね?」
「やだぁ〜、まだ飲むの〜〜〜〜」
「船にもお酒はありますよ」
「戻ってゆっくり飲みましょう」
 酒を欲しがって駄々をこねるグラフを何とかクロウバード号に連れ帰ろうと、先ほどから2人がかりで宥めているのだった。
 酔ってヘロヘロになっているグラフを2人は両脇から抱えようとした、そのとき。
「賑やかなヤツが居ると思ったら……グラフじゃねェか!」
 背後から声を掛けられた。覚えのあるその声に、フルーティーズが一瞬凍った。
 おそるおそる振り向いてみれば、其処にはこの場に一番いて欲しくないヤツが立っていた。
『クレイジーバーツ!!』
 ムンクの叫びな副長2人を無視ぶっこいて、バーツはテーブルに突っ伏しているグラフの顔をのぞき込み、微笑んだ。
「こんなところで逢うなんて、奇遇だなぁ」
 本当は港でクロウバード号を見つけ、必死扱いてグラフを探したのである。奇遇でもなんでもないのだが、そんなことは黙っていれば解らない。
 グラフがとろりとした表情で、バーツを見た。
「あ、バ〜〜〜ツゥ?」
「ん? 酔ってんのか?」
「ねェ、一緒に飲も〜〜よぉ。こいつらイジワルだから、飲んじゃダメだって言うんだぁ」
「へェ〜〜。イジワルだなァ」
「な?お前もそうおもうだろ〜〜?」
「お、おう……」
 同意したバーツの腕にギューーーーと抱きついて、潤んだ瞳で見つめるグラフ。
 グラフが女であれば、腕に柔らかな胸の感触が感じられるのであろうが、あいにくグラフは男で、胸はぺったんこ。
 これ以上ないぐらい平坦なのだが、バーツにとって、グラフの身体はそこんじょそこらの女よりも遙かに柔らかく思えるから、胸のあるなしなど全く関係無いことで。
 そして、彼の身体はとっても正直だった。抱きつかれたことで心臓はバクバク、体温は急上昇を始める。さらに、とある部分が元気になりかけて来たりするモノだからさあ大変。
(ヤベェ……なにか難しい事考えて気ィ散らさねェと)
 バーツはグラフから視線を逸らして天井を仰ぎ、元気になりかけている部分を沈めに掛かった。
「ににんがし、にさんがろく、にしがはち……」
 どうやら彼にとっては九九が難しい部類にはいるらしかった。(しかも2の段ときたもんだ)
「にろく……うぉっ!!??」
 九九を唱えて気を紛らわせようとしているバーツの腕を、グラフが思い切り引っ張った。
「天井なんか見てないで、俺の方むいてくれよォ」
 驚いて、グラフと目を合わせてしまったバーツ。
 うるるんおめめで見つめられ、理性がぷっつん、今にも切れそうだ。
(あ〜〜、何でこんなに可愛いんだよォ、ちくしょう!!)
「ばぁつぅ、どぉしたんだよぉ……早くのもーよぉ」
 バーツの葛藤にも気付かず、グラフは相変わらずバーツに抱きつきおねだりを続けている。
 酔っているせいで瞳にはうっすら涙が浮かび、身体もほんのり桜色に染まっていて、ヤケに色っぽい。
 バーツは今すぐ押し倒したい衝動に駆られるが、此処は寂れているとは言え立派な酒場。
 サービスしてくれるおねぇちゃんもいれば、成り行きを遠巻きに見ている同業者もいる。
ヤリたいあまり、今この場で始めて2人の関係を周囲に認めさせてしまうのも良いかもしれない……というイケナイ考えまで浮かんでしまう。
 しかし、ギャラリーのいる中で行為をすると言うことは、バーツが与える快楽によって乱れるグラフをみんなに見られてしまうということで。
 グラフのそんな姿を見て良いのは自分だけ、と勝手に決めつけているバーツにそんな勿体ないことなどできゃしねェ。
 ブンブンと頭を振って、イケナイ考えを追い出した。
 大きく深呼吸して、舞い上がった頭を落ち着かせてみる。
「グラフ、此処じゃあれだからさ……。奥に行って、ゆっくり飲もうぜ? な?」
「ホント!? だからばぁつ、すき♪」
「お、俺も好きだよ……」   
 下心思いっきりありあり、バクチほどではないにしろそれなりのポーカーフェイスでグラフの腰に手を回す。酔っているせいで鈍さに磨きの掛かっているグラフに、バーツの考えを見抜けるハズも無い。嬉しそうにバーツの首に抱きついた。 ☆挿絵
その行動は、バーツを誘っている以外の何者でもなく。バーツの鼓動は更に早くなり、落ち着きかけていたとある部分は再び元気になってくる。
「冗談じゃない!!」
 このまま連れて行かれてはキャプテンの身が危ないと、さっきから無視されっぱなしだったフルーツ達は青ざめた。
バーツの魔の手からキャプテンを救い出そうと、勇敢にも2人同時に飛びかかってみたのだが、クレイジーバーツの異名は伊達じゃない。
「おっと」
 グラフを首に抱きつかせたまま、フルーツを難なくよけると、

   ゲイン!
 見えない双剣を抜き払い、それで2人の頭を思いっきりぶん殴った。
 その瞬間、フルーティズの頭の上にはいくつものお星様が輝いた。そのまま2人はばったりと床に倒れて、お寝みモードへ突入するはめに。
 それを見届けたバーツ、足下のおぼつかないグラフをお姫様抱っこすると、酒場の親父に断りもせず、店の奥にあるおねェちゃんサービス用の部屋に入っていってグラフをベッドに横たえた。
「ばぁつ、おさけはぁ?」
「ちょっと待っててくれよ。今用意するから」
 グラフの声を背中で聞きながら、2人の愛の時間を邪魔されないよう、厳重にカギを掛けていく。
 ついでに部屋の家具を扉まで移動させて、完璧なバリケードを作る。
「よっしゃぁ! グラフ、これでもう邪魔は入らねェゾ!!」
 そう言ってバーツはガッツポーーズ!!!


 しかしグラフの返事はない。
 不思議に思い振り返ってみれば、グラフはすっかり夢の中。静かに寝息を立てていた。
「嘘だろ、おい……」
 バーツはがっくりと肩を落とすが、ベッドに寝かせたのは自分なのだから誰も責められない。
「いっそこのまま襲っちゃおうかな……」
 グラフの寝顔を間近に見ながら、プニプニと頬をつついてみる。
 しかしバーツには城に攻め込む度胸はあっても、グラフの寝込みを襲う度胸はない。
 そんな度胸があるのなら、とっくの昔にグラフを自分のモノに出来ている。
 グラフが酔っている今回が、千載一遇ともいうべきチャンスだったのだ。
「寝顔も可愛いし……、今回は添い寝で我慢するか……」
 根性無しのバーツは、寂しそうに笑ってグラフの隣にもぐり込んだ。
  そしてグラフと共に夢の中へ…………。





 頑張れバーツ、負けるなバーツ!! いつかきっとグラフをモノにできる日がくる!
………………かもしれない。





END

グラフクイーン、Y嬢のリクエスト(笑)
「酔ってバーツにおねだりするグラフが見たい。書いて」
と言われて書いてみたものです。

八重さんが、と〜〜っても可愛い挿絵を下さいました!
ありがとう!!!