キープグラバ。
 普段から賑やかなこの街が一層にぎわっている。
 本日はラーアジノヴの各地方からこの街に6才から11才までの子供達が大勢集まっているのだった。
 子供が集まる理由……それは、親子揃って天満宮にお参り!
 要するに、七五三だ。

 そしてたった今も一隻の大型船が入港し、一組の家族が降り立った。
 今年6才になる息子をもつ、クロウバードのグラフ一家であった。
「父さん、見て見て! 変な人がいっぱい♪」
 初めての街にはしゃぐキャプテングラフの愛息子が、そう言って目の前を指差した。小さな指が差したその先にいたのは、確かに『変』としか表現のしようのない格好をした、名もない海賊達。
 彼は子供ならではの無邪気さで、言っちゃーならないことをドでかい声で言ってのけたのだった。
 変な人呼ばわりされた海賊達は、『何処のガキじゃオラァ!!!』とドスを利かせて凄もうと、声のした方をギロリと睨んだ。
 しかし、相手は天下無敵、三大海賊クロウバードのキャプテングラフの愛息子。睨んだ相手がこれ以上ないほど悪かった。
 パパにライフルの銃口を向けられ、あまつさえ死神や悪魔の方がまだ愛らしいだろうと思えるほど恐ろしい形相で睨み返されてしまった。ちんぴらに毛の生えた程度でしかない海賊達、失礼なクソガキに凄むことは自らの死を意味することに気付き、小さくなって背中を向けると、人混みに紛れて逃げる作戦へとでた。
「あ〜、父さん、変な人たちいなくなっちゃう」
 その格好を楽しんでみていたのであろう、おチビさんは大きな瞳をウルウルさせて乳を、いやいや、父を見上げた。
 パパはそんな息子を宥めるために、白い歯をキラリと光らせ、言った。
「あの人達は、お前のためにもっと面白い格好に着替えてきてくれるんだよ」
 その言葉には、名もない海賊達に対する「着替えてこい」という命令が含まれていた。
 このまま逃げれば海賊稼業を続けるのは不可能と、無名の海賊はおチビさんを楽しませる格好に着替えるべく、泣く泣く自分たちの船へと戻っていった。
「あ、父さん、あっちにおっきい船があるよ!!」
 消えてしまった海賊達へ対する興味をマッハで失った子グラフ、入港してきた船に向かって駆け出した。
 そんな息子をほほえましく思いながらパパとママはゆっくりと後を付いていった。
 そして3人ともいなくなった頃、パパに脅された海賊達が着替えを終えて出てきた。腹踊りやその他諸々、宴会芸の定番の格好をして来たのだが、そこにグラフ一家はなく、ただ周囲の人々の冷たい視線だけが彼らを迎えていた。

 次に入港してきたのはダイアモンドサーペント号。甲板で作業をしていたクルーが梯子を下ろした。
 まず最初に梯子に足をかけたのは太陽と張り合うばかりにまばゆい頭をもつ、ハゲ……ではなく、キャプテンダイアン。
 ズンズンと威厳を振りまきながら降りていく。
 ダイアンに続いて姿を現したのは、副長だ。
 何故か、右手に小さな三角形の旗をもっている。
 副長は梯子の前に立つと、背後を振り返った。
「は〜い、今から降ります!!押さないで順番に!」
 副長は旗をひらひらと振り、テンポを取るためにピッピッとホイッスルを吹く。その笛の音に合わせてダイアモンドサーペントからぞろぞろと子供達が降りてきた。
ぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろぞろ……まだ終わらんのかい!!!!といい加減ツッコミを入れたくなった頃、漸く最後の子供が陸へと降りた。
 キャプテンダイアンの子供はすでに30人を越えている。そして、今日この場に全ての子供が勢揃いしていた。
 めんどくさがり屋のハゲは最年長の子供が11才になった今年、みんなまとめて行事を済ませてしまおうと考え、6才になっていない子供まで連れてきたのだった。
 その考えで一番被害を被っているのがこの男、副長だった。
 子供達の面倒をみるというやっかいな仕事を押しつけられてしまったのだ。
「あ〜、コラコラ! 勝手に余所に行くな!!」
 30人も子供がいると、そらもう大騒ぎ。あっちではとっくみあいのケンカが始まり、こっちではお漏らしをして泣き出す子がいる。はては副長の背中によじ登って頭の上に立つヤツまで出てくる始末。
 少しもジッとしていない子供達をぶん殴ってやろうかと思うが、相手はそこんじょそこらのガキではなくキャプテンの子供。
 子供を殴って、万が一にもキャプテンの機嫌を損ねたりした日には、副長の座どころか命が危ない。
 何で俺がこんな事を……と心の中でぼやくのが精一杯だった。そして副長はTV局のADさながらに、子守とその他諸々の雑用をこなしていくのであった。

 所変わってこちらは一足先に入港していたレッドスケル号。愛娘レイラと、先日寂れた漁村で拾った兄弟の祝いのためにレッドスケルもこの街へ来ていたのであった。
 パパとハゲがそれぞれの家族を連れ、挨拶に現れた。
「よォ」
「相変わらずだな」
「お前らもな」
 他愛のない会話をしばし続けた後、各々の子供を紹介する事となった。
 ヒゲが近くで遊んでいた3人の子供を呼びつけ、パパとハゲに端から紹介していく。
「左から、レイラ、ラグ、ジョンだ。ラグとジョンは余所で拾ったガキだがな」
 パパにはラグとジョンという兄弟の目つきが気にくわなかった。
 何となく、息子に害を及ぼすような予感がしたのだった。
 次に、ハゲが子供を紹介……しようとしたが、その数30人以上。
 副長が纏めるものの、少しもジッとしていない。
 なんとか数人を呼び止めることに成功し、片端から名前を挙げる。
「あ〜、あいつがヴァルスであっちがリィナ、アレスにシオン……」
「父さん、僕ディーンだよ」
「私はリルムよ」
 子供達が口々に名乗った。
「お、そうだったか?すまん、すまん」
 ガッハハと笑って誤魔化すハゲ。
 ハゲが挙げた名前と、此処にいる子供達の名前は全く一致していなかった。
 次はパパの番である。
「お前んとこのせがれは何処にいるんだ」
 ヒゲが、言った。
「此処だ」
「どこだ?」
「お前達の目は節穴か?」

ジャキッ

 キョロキョロと辺りを見回し続けるヒゲとハゲにいらだったパパは、こめかみに青筋を立て、ライフルの照準を2人にロック・オンした。
「だぁぁぁ!!銃口向けるなっ!!! だから、何処にいるっていうんだ」
「俺のガキは此処にいるだろうが!!!」
 パパは自分の長い足に隠れるように立っていたおかっぱの子を抱き上げた。
『……………………』
 ヒゲとハゲが思わず凍りついた。
 それも無理のないことであろう。
 パパに抱き上げられたのは、これでもか!! とまでにフリルをあしらったピンクのドレスを着た女の子だった。髪にはドレスとお揃いのカチューシャを付けている。
 抱き上げられた子は照れ屋さんなのか、恥ずかしそうに頬を染めてパパの首筋に縋り付いた。
「グラフ、お前んとこ……確かせがれだったよな……?」
「そうだ」
「どう見ても娘に見えるんだが……」
「かわいいだろ」
 パパは、ウチの息子は何を着せても似合うだろう、と言わんばかりに胸を張っていた。
 確かに似合っている。しかし女の子の服を着た息子を自慢するパパの姿は、親バカ以外の何者でもない。
 初めて見るライバルの親バカな姿にヒゲとハゲは軽い目眩を覚えた。
「ああ……そう……」
「可愛いのは、解った。なんで女の子の服を着せてるんだ!!??」
「妻の、趣味だ」
 パパは事も無げに言った。
「だからって、着せるか、フツー!?」
「やかましい! ガキはウチの奥さんに似て美人なんだ! 折角可愛い顔してるんだから、色々着せないと勿体ないだろォがっ!!」
「その格好、嫁さんの趣味じゃなくて、お前の趣味じゃないのか・・・?」
 ハゲがぼそりと呟いた。
「何か言ったか?」
「い〜や、何も!!!!」
 ジロリと睨まれ、ハゲは慌てて首を振った。
「あなた、そろそろ……」
 参拝の時間が近づいたのか、傍でニコニコと見守っていたママがそっとパパに近づき、控えめに声を掛けた。
「もうこんな時間か。お前達の相手をして、折角のガキの晴れ姿を逃すわけにはいかないからな」
 パパは踵を返すと、ママと息子と仲良く談笑しながら神社のある街の奥へと歩いていった。
 その姿を見送っていたヒゲとハゲ。
 暫くたって見送るのを止めた2人は、グラフと反対方向へと歩き出した。近くで遊んでいるだろう子供達を迎えに行くためだ。ハゲが並んで歩くヒゲに話を振った。
「それにしても……いくら嫁さん似とはいえ、グラフとはちーとも似てねェな」
「似てるって言えば髪の色と目の色ぐらいか?」
「案外、グラフの子じゃ無かったりしてな」
 がっはっは、と豪快に笑い飛ばす2人の背後で、ジャキン、と剣呑な音がした。
 その刹那、2人の笑いは止まり、背筋に冷や汗たらり……
 おそるおそる振り返った二人が目にしたのは、いつ戻ってきたのか……顔面上部にデッドさん並の影を付け、怒りの大魔人を背中にしょったパパだった。
 我が子のこととなれば、パパの聴力はすぐさまデビルイヤーに様変わりする。たとえ100m離れていようも、聞き逃しはしないのだった。
「随分、楽しそうな話をしているな」
 一言一言、区切るように念入りに発音していくパパの目は座り、指はすでに引き金にかかっていた。ほんの一ミリでも指が動けば愛用のライフルが火を吹くことは必至。
「ま、待て!!今のはジョークだ!! It's アメリカンジョーーク!!!!」
 なんとかこの場を言いつくろおうと、冷や汗ダラダラ流しつつ懸命に努力するヒゲとハゲ。
 もちろん、銃口から離れるべく後ずさりすることも忘れていない。
 そんな2人を見据え、氷よりも冷たい声で、パパは言った。
「ジョークにはジョークで返さないとな」

  ドン!!!!


『どわっ!!!!』
 海賊同士の争いは御法度という決まりも何処吹く風、パパは表情一つ変えずに引き金を引いた。
 パパから3m程離れることに成功していたヒゲとハゲは、銃弾をマトリックス状態でかろうじて避けたのだった。
 2人はすかさず床からはね起き、青筋を立ててパパに迫る。
「グラフ、てめぇ今本気で撃ちやがったな!!??」
「此処じゃ、争いは厳禁だろうが!!」
「争い? 何言ってやがる。今のは、ジョークだ」
 怒りのレベルMAXのパパは感情の一切籠もらない声で言い放ち、更に2発目を撃とうと撃鉄をあげた。
 このままではパパに本気で殺られかねないと悟ったハゲが、何とか活路を見いだそうと辺りを見回す。
「おい、グラフ! あれ、あれ!」
 同じく逃げる隙を窺っていたヒゲが、突如大声を上げてパパの背後を指さした。
「そんな見え透いた手に引っかかると思っているのか?」
 ヒゲの声にも全く動じず、パパの引き金にかかった指が僅かに動いた。
「いいから見てみろっ! お前んとこのガキに手を出しているヤツがいるぞ!!」
「なにィッ!!??」
 息子に関係していることと聞き、ソッコーで振り向くパパ。
 50m程離れたところで、妻と息子がパパを見つめているハズだった。
 だが、其処にいたのは妻と、息子と……先ほどヒゲに紹介された、クソ生意気な目をした銀髪の少年。
 そいつがよりによって愛息子と楽しそうに手を繋いでいた。
 ヒゲは、我が身可愛さにジョンを売ったのであった。(ああ、気の毒に(ホロリ))
「くおらぁ、クソガキ! 俺の息子に何してるっっ!!!!!」
 パパはヒゲとハゲの事をコンマ001秒で頭から追い出すと、攻撃対象をジョンに切り替えた。
         「加速装置!」
 遠くで、島村ジョーの声が聞こえた気がした。
 次の瞬間、パパは愛息子の元へと移動を完了していた。

『あいつは、サイボーグかぁ!?』
 ヒゲとハゲが驚きの声を上げた。
 パパは息子とジョンの繋いでいる手をチョップで引き離し、即座に息子を抱き上げた。
「人のガキに手を出すとはいい度胸だな」
我が子さえ泣き出しかねない形相でジョンに迫る。
「え……? ただ一緒に遊んでいただけじゃん!!」
「問答無用!!!!!」

ドン!
「うわわっっ!!!」
 息子命のパパは相手が子供だろうと容赦はしない。
 息子を妻に託すと、ジョンに向けてライフルを発砲した。
 すかさず避けるジョン。弾丸はジョンの足下へ着弾した。
「逃げるな、クソガキ!」
 逃げるなと言われて「はい、そうですか」と待つようなバカは何処にもいない。
 ジョンは猛烈なスピードでヒゲとハゲのいる方へと逃げていく。
 普段のダンディさはどこへやら、パパは鬼のような形相でジョンを追いかける。
「だあああ!!ジョン、こっちに来るな!!」
「オヤジ、あのおっさん止めてくれよっ!」
「お前がグラフのガキに手を出すからだろうが!」
 揃って逃げ出すヒゲとジョン。
 そこへ、パパがライフルをみたび発砲!!

 ドンッッ!!!     
チュィン!

 銃弾はヒゲの脳天を掠めた。
 今まで逃げに廻っていたヒゲもコレにはさすがにブチ切れたっ!
「いいかげんにしやがれ、テメェ!!!」

 パグシャァァァ!!

 ヒゲは足を止めるとくるりと体の向きを変え、突進してきたパパにラリアットを叩きこんだ。
 吹っ飛ぶパパ。
 数メートルほど飛んだところで、背中から地面へと落ちる。
 しかし、パパを沈めるにはこのぐらいでは足りない。
 パパは両足を高くあげると背中をしならせ、手を全く使うことなく起きあがった。
 ズンズンと歩み寄り、ヒゲとにらみ合う。
 2人とも、船長服を脱ぎ捨てた。

 カーン!
 何処かで、ゴングが鳴った。
「やりやがったな、くそヒゲがぁ!!」
「てめェの親バカぶりにはうんざりだ!」
 ゴングの音を合図に、パパとヒゲのバトルが始まった。
 パパがヒゲにエルボーを食らわせば、負けじとヒゲはパパにフェースロック!!
 2人の周りにはいつの間にかロープと、コーナーポストが設置されていた。
「はいこちらキープグラバ特設リングからお送りしています。私、実況のクロウバードクルー、ピーチと申します。解説は同じく三大海賊の一つに数えられる、ダイアモンド・サーペントのキャプテンダイアンさんです。ダイアンさん、よろしくお願いします」
「よろしく」
 何故か実況中継席まで設けられ、ハゲがちゃっかり解説者におさまっていた。
「ダイアンさん、ハッキリ言ってどちらが優勢だと思われますか?」
「パワーなら、スパード。スピードならグラフだな」
「おおっとぉ!スパードがグラフにジャーマンスープレックス!! しかしグラフも負けてはいない! スパードにサソリ固めだぁ!
コレは痛い!! グラフ、スパードから離れてコーナーポストにあがったぁ! さあ、どうするつもりなのか!?」
「コーナーに上がったと言うことは、フライングボディアタックあたりだろう」
「おおっ!! グラフがコーナー最上段からドロップキック! スパードの顔面にヒットしたぁ!」
「さすが、グラフだな」
『暢気に解説してんじゃねェ!!』

 ドン、ガシャーン!!
「おっとぉ! ロープを飛び越えてきたスパードとグラフのWラリアットがハゲに炸裂!! 倒れるハゲ!! 大丈夫なんでしょうか!?」
「やりやがったなてめェらっ!!!」
「おー、無事です! ハゲは無事でした!! ゆでだこの如く顔を真っ赤にしています! 
パイプ椅子を振りかざし、スパードとグラフに投げたぁ!!!!!
試合はダイアンも巻き込み、場外乱闘へと発展しています! さあ、勝者は一体誰になるのでしょうか!!??」
「母さん……止めなくていいの?」
 少し離れたところでパパの闘いを見ていた息子が、少し心配気にママの顔を見上げた。
 ママは優しい笑顔を浮かべ、言った。
「大丈夫、父さんはお友達とじゃれてるだけだから。さ、お参りに行きましょうか」
 そう言って息子の手を引くと、乱闘を続けるパパを残して神社のある街の奥へと消えていった。
 グラフ家の女はどこまでも強かった。

 その後、3人の乱闘は参拝を済ませ戻ってきた子供達に止められるまで延々と続いたそうである。
 ボロボロになった彼らをママが手早く手当していく。
 引き分けとなってしまったため、誰が勝利者なのかはハッキリと解らず終いであった。ただパパに貼られた絆創膏は、他の2人よりも一つだけ少なかったそうである。
 それが真にパパの勝利の証なのか、ママのパパへの愛情なのかは、貼った本人と神のみぞ知る………






END

sirfunk3周年献上品。(のはず)
先代ズのギャグです。
祝いなのでパパをメインに頑張ってみました!
しかし書き終わってみると、ママがおいしいところ
を持っていった気が・・・・(汗)

タイトルは夢見サンに付けて頂きました♪