海賊クロウバードの母港、アーバラン。
比較的温暖なこの街にも冬は到来していた。
周辺の家よりは僅かに大きいが、屋敷と呼べるほどの規模でもない、一軒の家。
そこがキャプテングラフの家。その家に一人の子供が走って行く。
「ただいま!!母さん、父さんは?」
息を弾ませて子供が部屋に駆け込んでくる。
髪と瞳の色は父親に、顔立ちは母親に似た、少年。
クロウバードのキャプテン、グラフの一人息子である。
母親は少年の姿を認めると、編み物をしていた手をとめた。
「もうすぐ帰ってきますよ。夕ご飯の用意を手伝ってくれる?」
立ち上がり、傍に掛けてあったエプロンを手に取ると、キッチンへと歩き始めた。
グラフは母と共にキッチンへ入り、テーブルへ食器を並べていく。
キッチンの片隅にあるツリーに目をやり、
「ねえ、母さん。どうしてクリスマスにはお祝いするの?」
と聞いた。
それはグラフがずっと不思議に思っていたこと。
毎年この時期になると、街はどことなくお祭り気分となる。しかしこの街を造ったグラフの一族の誰かの記念日と言うわけではないし、他の街も同じように祝っている。
息子の質問に、母は料理の手を止めて少し考え込む。
「どうしてかしら・・・?遠い昔にえらい人が生まれた日だって聞いた事があるけど……」
「じゃあクリスマスって、そのえらい人の誕生日をお祝いする日なの?」
「もともとはそうだったんでしょうね。でも今は、家族みんなが無事で居られることを感謝する日になってるわね」
笑顔で答える母。行事の由来がなんであれ、今では大事な『家族団欒の日』となっている。
「そうなんだ……」
母の説明で納得出来たのか、一つ頷くとグラフは母の手伝いを再開した。
そして食器が全て並び終わった頃。
「父さんが帰ってきたから、お出迎えしましょうか」
何の気配もしないのに、唐突に息子に言う。
母はまるで魔法のように父の帰る時刻を当てられるのだ。
そのことをしっているから、グラフはなんの疑問も持たず母と共に玄関へ父を迎えに出ていった。
「ただいま」
出航の準備を終えた父が帰ってきた。
「お帰りなさい!!!」
グラフは父の姿を認めると飛びつくように抱きついていく。勢い良く抱きついても父は全く動じることなくその腕にグラフを抱き上げ、愛する妻と我が子にキスをする。
そしてグラフに、
「明日からの航海、お前も一緒に来るか?」
と言った。
「いいの!?」
「ああ。ほんの2,3日の航海だから、初めて乗るにはいいだろう?」
「ありがとう!!父さん!!」
父の首にきつく抱きついた。
明朝。
「じゃあ、気を付けていってらっしゃい」
母はグラフの頬にキスをする。
「おみやげ買って帰ってくるね!!」
グラフも母にキスを返し、クロウバード号へと乗り込んでいった。
母をアーバランに残し、初めての航海となるグラフを乗せて、クロウバード号は数日後に控えたクリスマスの買い出しのため出港していった。
アーバランから2日ほど南に下った、とある港街。貴石の生産で有名なこの街にクロウバード号は停泊していた。
今年は父と母が結婚して10年になる。だからグラフは父と相談をして母へのプレゼントをこっそりと用意していた。
父が航海した先で手に入れた宝の中にあった、母の瞳と同じ色をした翠色のダイアモンド。
ダイアモンドの意味する言葉は『永遠の絆』
その言葉の意味と、滅多に手に入らない珍しい色と言うことで2人はこの石をプレゼントにする事に決めたのだ。
その石の、指輪への加工が出来上がったという連絡が入ったので、グラフと父はとある店へと向かう。
2人が向かった先は、王室御用達の看板を掲げているこの国1番と評判の高い宝石商。
「お待たせしました。何しろ翠のダイアなど、そうそうお目にかかれる物ではありませんので、細心の注意を払って加工いたしましたから、お時間がかかってしまいました」
店主の説明を聞きながら出来上がりの確認を取る。父が預けた宝石は、上品にカットされプラチナのリングに填められていた。
リングの裏にはクロウバードのマークが刻まれている。
キラキラ光る石に、グラフの眼は釘付けとなる。
父を見上げ、
「綺麗だね〜。ねェ父さん、これ、僕が持っていてもいい?」
とおねだりをする。
息子に甘い父がおねだりに勝てるはずもなく。
「落とさないようにな」
笑顔でそう言うと息子の頭を撫でて、綺麗に包装された指輪を入れた小さな手提げ袋を渡した。
そして宝石店をでてクロウバード号へと帰っていく道すがら、市場を通って必要な物を買いそろえて行く。
国内3大海賊の一つであるクロウバードのキャプテングラフが片手に買った品物を入れた紙袋を持ち、片手で子供の手を引いているのは傍目にはものすごく奇妙に写る。
しかし彼の持つ雰囲気はそんなことでは壊れない。混雑した市場にも拘わらず、人はグラフ親子をよけるように歩いていく。
グラフはアーバランから出たのは初めてのことであり、目にする物全てが珍しい。父に手を引かれながらもキョロキョロと辺りを見回していた。
「あっ!!」
何か興味を引かれる物を見つけたらしく、いきなり父の手を振り解いて走り出すが、
ビターン!!
何もないところで思いっきりコケる。
「ふぇっ……」
「大丈夫か!!??」
思いっきり膝を打ち付けてしまい泣き出しそうになるが、そこは男の子。グッとこらえて我慢する。慌て駆け寄ってきた父に抱き起こされると、コケたショックで手から放れてしまった紙袋を拾う。
父は服のホコリを払ってやると、
「急に走ったりしたらダメだろ?此処は混んでて危ないからな」
グラフを抱き上げ、紙袋を持った手と反対側の肩に乗せて歩き出した。
港へと戻ると何時の間に入港したのか、クロウバード号の隣にレッドスケル号が停泊していた。
「うわぁ〜〜。おっきな船だね、父さん!」
初めて見るクロウバード号以外の大型海賊船に、素直に驚く。
が、どんな問いかけにも必ず応えてくれるはずの父からの返事がない。
そのこと不思議に思い父の顔を見下ろすと、父はそのとき海賊のキャプテンとしての表情を浮かべていた。
「父さん?」
初めて見る父の厳しい顔つきに、不安になるグラフ。
息子の不安混じりの声に、父は厳しいキャプテンから優しい父親へと表情を戻す。
グラフを安心させるように笑顔を浮かべ、
「父さんはちょっと人に会ってくるから、大人しく船で待っておいで」
と言って、グラフを肩から降ろした。
「うん!!」
いつもと変わらぬ父の笑顔に安心して、グラフは素直に返事をする
出迎えに来たクルーに紙袋を渡し、愛息子の頬にキスをして、父は港の一角にある酒場へと歩いていった。
父を見送った後、クルーに連れられて船長室へと戻ったグラフ。何気に手提げ袋の中を覗いてみる。すると、袋の中に有るはずの指輪が無い。
どうやら市場でコケたときに袋の中身が飛んでいってしまったらしい。
「どうしよう……」
大事な物を落としたコトに気づき、半泣き状態となる。
暫く考え込んでいたかと思うと、船長室を出て甲板へと向かっていった。
そしてクルー達の目を盗ん、でこっそりと船を降りた。
父の言いつけを破ったことなど一度もないグラフ。父が戻ってきたら一緒に探しに行こうかと考えたものの、航海のおみやげを楽しみにしているであろう母の悲しむ顔を想像してしまい、じっとしていられなくなってしまった。
それに、自分で失くしたものは自分で探そうという想いも働いている。
そして父と一緒に通ってきた道を逆にたどって行き始めた。
失くした場所の見当は大体ついていたが、万が一の事を考えて、通る道を隅々まで見て歩いていく。
落とした指輪を探すために下を向いて歩き続けていたせいで、ふと気付くと歩いたことのない裏道へと入り込んでしまっていた。
目に入る人々は、見た目にも善良とは言い難い人たちばかり。
だんだん怖くなってきて一旦港に戻ろうと走り出した途端に、誰かとぶつかってしりもちを付いた。
「うっ………」
大事に育てられているため、年齢のわりには幼いところがあるグラフ。尻餅をついたショックで泣き出しそうになる。
「ごめん!!大丈夫か?」
今にも泣き出しそうなグラフに、ぶつかった方は慌てて謝る。その声はまだ声変わりをしていない少年のもの。
声につられて見上げると、ぶつかった相手は彼とそんなに年も離れてない銀髪の少年だった。
見上げてきたグラフに手を差し出し、にっかりと笑顔を向ける。
自分よりいくつか年上の少年の笑顔に安心したのか、素直に差し出された手を取った。
少年はグラフの手を引き、立ち上がらせてやる。
「お前、こんなトコでなにしてんだ?この辺て物騒だから、お前みたいな坊ちゃんが一人でうろついてたら浚われちまうゾ?」
比較的治安の良い街ではあるが、スラム街のような一角も確かに存在する。
そんなところに身なりの良い子供が一人で出歩いていれば、まず間違いなく浚われて売られてしまう。
「僕…母さんへのプレゼント落としちゃったから……探してるんだ」
少年の言葉に一人で出てきた理由を思い出し、グラフは再び泣き出しそうになる。
「わ〜〜っ、泣くなってばっっ!!何を落としたんだよっ!?」
「緑色の石のついた指輪……。母さんのタメに特別に作ってもらった物なんだ………」
「じゃあ、俺も探すの手伝ってやるよ。俺、この街は少し知ってるし」
ぶつかった相手は見るからに世間知らずのお坊ちゃん。このまま一人にすれば確実に人浚いに遭ってしまう。そう考えて、少年は手伝いを申し出た。
「ほんと!?」
変なところに入り込んでしまったせいで、一人で出歩く怖さを知ってしまったグラフ。
その申し出に、パッと明るい表情になる。
「ああ。俺はジョン・バーツ。ジョンでいいよ。お前は?」
「僕は……グラフ」
「グラフ……?んじゃお前、キャプテングラフんトコの子?」
グラフという名に驚き、あんぐりと口を開けて、ジョンは目の前の少年を見つめた。
「そうだよ。いけない?」
「悪かないよ。ただ…似てないな、と思ってさ」
「僕、母さん似だもん」
気にしてることを突っ込まれ、グラフはぶんむくれる。母の事は好きだが、やはり少しは父に似たかったのだ。
「ごめんごめん。とにかくさ、此処ヤバイから早く表通りに出ようぜ?」
ジョンは苦笑いして謝ると、拗ねたグラフの手を引き、市場の方へと歩き出した。
市場のある通りへとでると、2人は港から宝石店までの道を虱潰しに探しつくしていった。
しかし、結局指輪が見つかることはなかった。
疲れ果て、市場の一角に座り込む。
「ダメだぁ……こんだけ人がいるんだから、きっと誰かが拾っちまったんだよ」
「どうしよう……」
膝を抱えて俯くグラフ。
「失くしたって言ったら親父にぶっ飛ばされるのか?」
「父さんはそんなコトしないよ!きっと笑って『気にしなくてもいい』って言ってくれるだろうけど……」
ジョンの乱暴なセリフに驚き、慌てて否定する。
いっそ怒られた方が気楽になるだろうが、グラフは両親に怒られたことがない。だからこそ申し訳なくて余計に悲しくなってしまう。
とうとう泣き出してしまったグラフを前に途方に暮れるジョン。何とか慰めようと辺りを見回す。
「そうだ!来いよ!!」
何か思いついたらしく、ジョンはいきなりグラフの手を取ると街の奥の方へと走り出した。
「ねェ、何処に行くの?」
「いいから黙ってついて来いよ」
グラフはジョンの勢いに押され、泣くことも忘れて手を引かれるまま走っていった。
暫く走り続け息も切れかけた頃、ようやく目的の場所へとついた。
「ほら、ココ!!」
目の前に広がるのは、冬の寒さにも負けずに懸命に咲いてる、シクラメンやプリムラ、クリスマスローズといった花々。
「うわぁ……ここ、冬でも花が咲くんだね」
小さな花畑に思わず笑みがこぼれる。ようやく笑ってくれたことが嬉しくて、ジョンも笑顔になる。
「お前んとこ、咲かないのか?」
「うん。見たことないよ」
「じゃあさ、指輪の代わりにこれ母さんに持って帰ってやれよ。きっと喜ぶぞ?」
「そっかな……」
「絶対喜ぶって!!女ってのは、綺麗なモノならなんでも喜ぶんだから!!」
再び顔を曇らせだしたグラフの手に押しつけるように、摘んだ花を渡していく。
花を受け取りながら、グラフはふと浮かんだ疑問を口にした。
「ねェ、どうしてこんなに親切にしてくれるの?」
「どうしてって、友達なんだからあたりまえだろ!?」
ジョンはさも当然といった口調で答えを返す。
「友達……?」
全く予想もしていなかった言葉に、グラフの眼が点になった。
アーバランではキャプテンの子どもということでなかなか対等な友人が出来なかったグラフにとって、それは思いもよらぬ言葉だったのだ。
「んだよ?俺と友達なの、イヤなのか?」
グラフの反応にジョンはちょっと気を悪くする。
「そんなことない!!ありがとう!!」
ブンブンと力一杯首を振ってジョンの言葉を否定し、満面の笑みを浮かべて礼を言った。
陽も暮れかけた頃、小さな花束を持って港へ向かう2人の子供の姿があった。
港が近づき、クロウバード号が見えてきた。
「あれ、お前の船だろ?俺の船はこっちだから、ここでお別れな」
レッドスケル号を指さすと、ジョンは右手をグラフに差し出した。グラフはその手を取り握手を交わす。
「色々ありがとう。今度、僕の家に遊びに来てくれる?そしたら母さんと僕が作ったケーキをご馳走するから!!」
「行けたら、いつか行くよ。それより、花、枯らすなよ!!」
そう言ってジョンはレッドスケル号へと戻っていった。
グラフはジョンが見えなくなるまで手を振り続けた。ジョンも何度も振り返り、グラフに向かって手を振りかえしていった。
ジョンが見えなくなってところで、ようやくクロウバード号へと歩き出した。
クロウバード号ではグラフがいなくなったコトに、上を下への大騒ぎとなっていた。
そこへトコトコと帰ってきたグラフ。
「坊ちゃん!キャプテン、坊ちゃんが帰ってきました!!」
グラフを見つけたクルーの声に、青ざめた父がものすごい勢いで走り寄ってくる。
「何処へ行ってた!?ケガはないか!?」
父はグラフの前にしゃがみ込むと、ケガの有無をチェックしていく。
「ごめんなさい……。母さんのプレゼント失くしちゃって、ずっと探してたの……」
「そうか。だけど、黙って探しにいっちゃだめだろ?お前に何かあったりしたら、母さんだって悲しむゾ?」
俯いて謝るグラフ。父はそんなグラフの頭を撫で、優しく諭す。
「ごめんなさい」
俯いたまま謝り続ける。予想通りの父の優しい言葉に、思わず涙がこぼれた。
「ほら、泣かなくていいから……。その花は?」
涙を拭ってやろうとして、グラフの手に握られた花束に気付く。
「……指輪が見つからなかったから、代わりに母さんにあげようと思って……」
そう言って握った小さな花束を父にさしだす。
父はグラフの涙を拭ってやり花束を受け取ると、
「一人でよく見つけたね」
と微笑んだ。
「ううん、一人じゃないよ。友達が咲いてるところを教えてくれたんだ!僕、友達ができたんだよ。父さんに話したいことがいっぱいあるんだ!!」
とたんに瞳を輝かせ、満面の笑顔ではしゃぐ。
父はグラフのその変化に少し驚きながら、
「それは指輪なんかよりもずっと嬉しいプレゼントだな。アーバランへ帰ったら、母さんと一緒に聞かせてくれるか?」
と言って、笑顔で彼を抱き上げた。
そして2人はクロウバード号へと消えていった。
その後少年2人が再び出会うまで、10年以上の歳月が必要となる。
季節は冬。クロウバード号はアーバランへと戻る航海の途中にいた。
冷たい海風が吹き天候も変わりやすいこの季節には珍しく、暖かな天気となったこの日。甲板ではグラフと副長の2人がのんびりとひなたぼっこに興じていた。
「キャプテン、この調子で行けばクリスマスにはギリギリ間に合いそうですね」
「そうだな。やっぱり、クリスマスは家族ですごさないとね♪」
あっはっはと暢気に笑いあう3人。アーバランまではあと3日の距離となり、心浮かれているのだろう。
そして、ピーチがなんとなく海の向こうに視線を向けたとき。一番見たくない物体を認めてしまい、一瞬にして青ざめる。
「キャプテン、右舷にストーンヘッドです!!」
「なにぃ〜?」
ピーチの悲鳴に近い叫び声に、グラフは慌てて船縁へと移動する。
見ると、スイートマドンナ号が併走している。いつもなら問答無用で衝突してくるはずなのに、今回は全くその気配がない。
グラフがバーツの行動を読めないでいるとスイートマドンナ号は併走しながらドンドンと近づき、船同士がふれ合いそうになる距離までよってくる。
そして限界ギリギリまで近づいたとき、バーツがマストの上から飛び移ってきた。
「よっ、久しぶり♪」
双剣も持たずに手ぶらで乗り込んできたバーツ。グラフの前に歩み寄ると、片手を上げて破顔する。
「久しぶりって……。いっつも突っ込んで来るくせに、なんで今回は突っ込んでこなかったんだ?」
そんなバーツを不思議に思い、グラフはどなるコトも忘れている。
穴を開けられるのが当たり前となってしまっている、クロウバード号。はっきりいって情けない。
「穴開けたらお前、クリスマスまでに港に帰れなくなるだろ?今日邪魔したのは、お前さんに渡したい物があってな」
「渡したい物?」
「手ェ出せよ」
思いも寄らぬバーツのセリフと満面の笑顔につられて、グラフはつい素直に手を出してしまう。
バーツがズボンから何かを取り出し、グラフの手に載せる。渡されたのは、綺麗に包装されリボンの掛けられた小さな箱。
「ンだよ、これ?」
「……開けて見ろよ」
まだ警戒しているグラフ。バーツに言われるまま、丁寧に包装を解き箱をあける。箱の中にあったのは、翠色のダイアモンドの指輪。
「………?」
男の自分に何故そんな物を贈って寄越すのか、バーツの意図がつかめずグラフの顔には大きな?マークが浮かぶ。
またからかわれていると思い、突き返そうとする。しかし、どこかで見た様な気のするその指輪を箱から取り出し、じっくりと眺めてみると、リングの裏にクロウバードのマークが彫ってあることに気が付いた。
バーツに渡されたそれは、グラフが遠い昔に失くした、母へのプレゼントの指輪。
「バーツ、これ……」
信じられないようにバーツを見つめる。
「この間、あの街の古道具屋で見つけてよォ。お前が失くしたのって、それだろ?」
照れくさいのか、バーツはグラフと視線を合わせることもなくあらぬ方を見つめている。
「わざわざこれを渡すために、俺の船に?」
「お袋さんによろしくな」
なんとも言えぬ表情を浮かべるグラフににっかりと笑顔を向けて、バーツは船へと戻っていった。
そしてスイートマドンナ号はクロウバード号から離れ、違う方角へと進んでいった。
2人のいつもと違う雰囲気に、遠巻きに様子を見ていたピーチとストロベリー。バーツが去った後、グラフの傍に駆け寄る。
「キャプテン。それ、なんです?」
ピーチが手の中の小箱に気づき、グラフに問いかける。
「バーツから、俺と母さんへのクリスマスプレゼントらしい」
グラフはピーチの質問に答えた後少し照れくさそうに微笑み、スイートマドンナ号の航跡を見つめ続けた。
「……帰ったら母さんに話さなきゃいけないことが出来たな」
―――優しい気持ちに包まれて、クロウバード号は母なる港へと帰っていく。
|