ある波の穏やかな日、順調に航海を続けるクロウバード号の甲板ではキャプテングラフとピーチ、ストロベリーの三人がのんびりと過ごしていた。
「キャプテン、もうじきキープグラバですけど寄りますか?」
「うーん・・・、食料はまだ十分あるからこのまま行こっか。この調子で行けば予定より早めにお宝をGETできそうだな」
「今回もファルコンにつながるお宝だといいっすね」
 ピーチの言葉を聞いてグラフはふと遠くを見つめる。
「ファルコンといえば・・・最近、バーツ見ないなぁ・・・どォしたんだろ・・・」
「何言ってるんですか!!」
「バーツが来ないのはいい事じゃないですか!!」
「そっか・・・そーだよね。へへっ」
 ポツリとつぶやいたグラフの言葉に、慌てて突っ込みをいれるフルーティズ。
 そんな暢気な会話を交わす三人の幸せな時間も長くはもたなかった。
  ドゴーーン!!!
 凄まじい音と共に船体が大きく揺れた。
「何事だあ!!」
 衝撃で尻もちをつきながらクルーに問うグラフの前に、双剣を持ったバーツが満面の笑みを浮かべて現れた。
「よっ、グラフ、久しぶり♪・・・大丈夫か?」
 剣を置いてグラフに手を差し出すが、グラフはその手をはねのけ、自力で起き上がる。
「何が久しぶりだ! 一体何しに来やがった!?今回は宝なんてねぇゾ!!??」
「いや〜、食料と水が底ついちまってよ。ちょっと分けてもらおうと思ってな」
 笑顔を崩さずそう言うと、バーツは肩越しに後ろを指さす。つられて見てみると、彼の後ろではいつの間に乗り込んだのかバクチ達がクロウバードのクルーをなぎ倒し、酒や肉を抱えてスイートマドンナ号へと戻っていくところだった。
「食料が欲しけりゃキープグラバへ行け〜〜!! なんでわざわざ俺の船を襲うんだ、お前はっ!!」
「いや〜、キープグラバよりお前さんの船の方が近かったから♪」
「ふざけんなぁ!!」
 人をくった物言いに、怒りで顔を真っ赤にして殴り掛かってきたグラフを難なく避けると、バーツは彼の船長服を掴んで引き寄せ、その耳元にとっておきの甘い声で囁いた。
「本当は暫くお前の顔を見てなかったからな、会いたかったんだよ」
「な? な!? なぁっ!!??」
 耳元でいきなり囁かれて、先ほどとは違う理由で真っ赤になり硬直する。
 バーツはそんな彼の変化を楽しそうに眺めるとグラフの頬に軽くキスをして、
「じゃっ、またな」
 そう一言残して自分の船へと戻って行った。
 スイートマドンナ号が離れていって暫くたった後、バーツ達のあまりの早技に全く反応が出来なかったピーチとストロベリーがようやく我に返り、クルー達に穴を塞ぐように指示を出すと放心状態のグラフを宥めにかかる。
「キャプテン、キープグラバ寄りましょ? 穴塞いで、食料も補給しないといけないし、ね?」
「お宝を手に入れる前でよかったっスよ」
「港もすぐ近くだし、今回はまだましな方ですよ」
「ねっ? だから元気出して下さい」
 しかしそんな二人の声も、放心状態からイジケモードへと移行したグラフの耳には届かない。
「バーツは俺を何だと思ってんだ。俺はあいつのオモチャじゃねーぞ・・・大体いつもあんな風に人をからかいやがって・・・」
 膝を抱えて、なにやらブツブツつぶやき続けている。
「あ〜あ、完璧にイジケちゃった」
「これは3、4時間は復活しないな・・」
「ピーチ、コックに言ってキャプテンの好物作ってもらってこいよ。それでごまかそ」
「そだな」
 肩をすくめながらグラフのご機嫌取りの方法を話し合う。もう扱い方も手慣れたものである。

 夕刻――修理のためキープグラバに入港したクロウバード号。
 修理に二日はかかるため、補給がすむとクルー達には自由行動が許される。
 グラフもいつものホテルへと向かい、自分のために用意された部屋のドアを開けると――
 バーツがくつろいでいた。
「いよーグラフ、遅かったな。ずいぶん待ったぜ? ほらっ、お前の好きなワイン持ってきたから一緒に飲もうぜ♪」
 事態が把握できず、入口で固まってしまったグラフの手を引いて部屋に引き込み椅子に座らせると、自分もグラフの向かいの席に座り、テーブルの上のグラスにワインを注いでいく。
 ニコニコして心から楽しそうなバーツを見てグラフは俯き、肩が震え出す。
「バーツ・・・お前・・・」
「何?俺に会えてそんなに震えるくらい嬉しいか?」
「キープグラバに寄るなら何で俺の船を襲いやがったぁぁ!!」
 めちゃめちゃ怒っている。普段が暢気な人間だからキレると止まらない。
「だから言ったろォ、お前に会いたかったって」
「お前はいつもそうだ!何でいちいち俺に突っかかるんだ!? 俺をからかって楽しいか? そんなに楽しいのか!? 俺はお前のオモチャじゃねぇ!! もうお前の顔なんか見たくもない!! 出てけよっ!!」
 普段怒り慣れてないせいか、だんだん涙声になってきたグラフにさすがのバーツも笑顔を消して真面目な表情になる。
「悪かった。お前の船に穴を開けた本当の理由は、今日ここに居てほしかったからだよ」
 さらに文句を言おうと口を開きかけるが、バーツの言葉と表情に毒気を抜かれ、キョトンとする。
「お前は覚えてないかも知れないが、今日は俺とお前が初めて会った日なんだぜ?」
 思いもかけぬ言葉に、首をかしげて昔の記憶を辿る。
「ーーあっ! 5年前、お前がレッドスケルに居たとき!!」
「そっ♪ 思い出したか? だから今日は絶対お前と過ごしたくてな。ちっと乱暴だったが、お前がここに寄るように仕向けたんだよ」
 思い出してくれた事がよほど嬉しいのか、再び笑顔になるバーツ。
「それならそうと、穴なんか開けずに最初から言えば・・・」
「・・・照れくさかったんだよっ!! ま、飲めよ。せっかく持ってきたんだから」
 バーツがここにいる理由が解ったことと、すすめられたワインが一番好きな銘柄であったことですっかり機嫌を直し、グラフはバーツと一緒に飲み始めた。
「あんときは、まだ船長服も着こなしきれていないお坊っちゃんだったのにな」
「ほっとけ! ・・・そういやあの後すぐだっけ、お前がレッドスケルを抜けたのって。なんで抜けたんだ? お前、スパードと結婚してレッドスケルを継ぐはずだったんだろォ?」
 何気ない言葉に、わずかにバーツの顔色が変る。が、ほろ酔い気分のグラフはバーツのそんな微妙な変化に全く気づかない。
「まぁ、いろいろあったんだよ。・・・それに、お前に初めて会ったあの日、スパード以上に大事なものを見つけちまったしな」
「何? その大事なものって」
 さりげない告白はにぶにぶなグラフには全く届かず、バーツはちょっと頭を抱えた。
「だーかーらー、あの時一目惚れしたんだよ!!」
「誰に?俺んとこ女性クルーいねぇゾ?」
 直球勝負もかわされ、バーツはさらにヘコむ。
 鈍いのは解っていたが、これほどとは思わなかったらしい。
 だがここでくじけては、クレイジーバーツの名が廃る。
「5年前、初めて会った時から、俺はお前に惚れてんだよ!!」
  ガターン!!!
 三度目の正直、はっきりきっぱり告白されて鈍い彼にも漸く理解できたらしく、グラフは全身を朱に染めて椅子ごとひっくり返った。
「な、なぁ!? そ、そんなこといきなり言われても・・・!」
 テーブルの脚を掴んで起き上がろうとするが、驚きのあまり腰が抜けているのか、なかなか立てないでいる。
 バーツは席を立つと、グラフの腕を掴み、引っ張り起こしてやった。
「いきなりじゃねーよ。今まで何度も言ってただろォ?」
「えっ、いつ? え、え!?」
「お前さんの船に乗る度に言ってたぜ?」
 言われて思い返してみると、確かにバーツはクロウバード号を襲う度、グラフにむかって好きだの会いたかっただのと言っている。
「・・・でもあれは俺をからかっていただけだろ? 普通はあんなの本気にしねぇゾ?」
「本気にしなかったから、今はっきりと言ってんだよ」
「いや、でも・・・」
「なあ、グラフ。お前は俺のこと嫌いか・・・?」
 なおも言い淀むグラフを軽く抱き寄せ顎に手をかけて、真剣な眼差しで彼の瞳をのぞき込む。
 もちろん大嫌いだと言いかけるグラフ。だが初めて見るバーツの不安気な瞳の色に戸惑い、口をつぐんで考える。
(バーツは俺の船にしょっちゅう穴を開けるし、お宝も奪うし・・・・。でも、俺もバーツが来ないと気になって仕方なかったし・・・。なんで俺、男に見つめられてこんなにドキドキしてんだ?)
 長い沈黙が続き、見つめられることに恥ずかしくなったグラフがわずかに顔をそむけた。
 そしてようやく口にした想いは――
「嫌いじゃない」
 の一言。
「そっか♪じゃあお互いの想いが通じたっつーことで♪」
 今までの不安気な表情はどこへやら、満面の笑顔でグラフをお姫様だっこすると、バーツは寝室へと向かっていく。
「だ〜〜! お前、何すんだ!!」
「何って・・・お前も俺のこと好きなんだろォ? 両想いならやることは一つだ!!」
「あほかぁ! 嫌いじゃないとは言ったが、『好き』とは一言も言ってねえ〜〜!!」
「おっ、そうか? まぁ『嫌いじゃない』も『好き』も同じだって♪」
「全然違う!!!」
「一晩一緒に過ごせば好きなるって♪」
「嫌だ〜〜!! 離せーー!!」
 手足をばたつかせて抵抗するが、寝室に連れ込まれベッドの上に落とされる。
 両手を押えて、馬乗りになったバーツをなんとかはねのけようともがくが、酔いが廻っているうえ、体格が違いすぎて成功しない。
 覚悟を決めて、ギュッと目を閉じ硬直するグラフ。
 そんな彼を抱きしめて唇にキスをすると、バーツはグラフから離れていった。
「???」
「今日のところはキスだけな♪近いうちに『嫌いじゃない』から『好きだ』にさせてみせるから、そうしたら続きしようぜ♪」
 そういって寝室から出ていこうとするバーツの背中に、顔を朱に染めたグラフが枕を投げつけながら叫んだ。
「一生なってやるもんか、バカヤロー!!」

「キャプテン、お早いお帰りですね。今日は帰らないんじゃなかったんですか?」
「うっせい!」
「だめだったか・・・」
「だめだったみたいですね」
「なんだかんだいって、キャプテンも純情だよなぁ」
「告白に5年もかけるぐらいだからのォ」
「あと何年でモノにできるんでしょうね」
「それはそうと、賭けは俺の勝ちだからな、金払えよ」
 どうやら今晩、帰るか帰らないか賭けていたらしいクルー達の好き勝手な声を背に、バーツはグラフをモノにするための今後の計画を立てるため、船長室におこもりする。
 そして翌日、スイートマドンナ号は一足先に出航していった。
 初めての想いに戸惑うグラフを残して―――






END

正真正銘、生まれて初めて書いた文章(笑)
はまったジャンルではは常に読み専なため、
フルココにハマッた当初も、自分でバーツ×グラフな話を
書くことになろうとは夢にも思っていませんでした。
しかし某所の裏でバグラを見付けた途端、
何かに取り憑かれたかのように
一気にこれを書き上げたのでした。
これが最初で最後の文章のつもりだったのに……
なぜかサイト持ちになっちゃいました(苦笑)