――何処までも広がる闇。俺だけしか存在しない虚無の空間――
初めて人を殺めた夜から見ている夢。
人を殺した日は必ずこの闇にただよう……

クスクス……

どこかから笑い声が聞こえてくる‥‥。

――あなた、どうして泣いているの?

泣いている? 俺が?

――ええ、とても辛そうだわ。

辛い、か。確かにそうだ。人は生きている限り苦しい想いをし続けているのだから。
だからこそ俺は人々に死と言う宝を与えているんだ。

――あなたは『死』こそ宝だと言うけれど「死」は全ての終わりでしかないわ……

死に勝る宝など、ありはしない。死によってのみ、人は全ての苦悩から解放されるんだ。

――死を宝だと信じているあなたがその宝を享受できていないでしょう……?
死は手元に残らない、虚しいだけの宝でしかないわ。
あなたはそのことを分かってるはず……

俺が宝を受けるのは、全ての人に死を与えてからだ。
それよりお前は誰だ? 姿を見せろ。


そう言った俺の前に光が集まった。
それは一つにまとまり、少女の形を取り始めた。
完全に形になったところで袈裟懸けに斬りつけた。
少女は小さな光の粒になって散っていった。
だが光は再び少女の形を取った。


――あたしを斬ってもムダよ。あたしはもう死んでいるから。
あたしがいた村は、あなたに滅ぼされたの……

恨み言を言いに来たのか?

――誤解しないで。別にあなたを恨んで此処に来たワケじゃないわ。
あなたに殺されなくても、あたしは病気で死ぬ運命だったのだから。  
  
ではなぜ人の夢の中に入り込んできた?

――あたしには2つの願いがあったの。
  一つは、苦しまずに死ねること。そしてもう一つは……


          
     次の言葉を待つ俺の視線から逃げるように少女は俯き、微かに首を振った。      

  

――あなたが来てくれたことで、あたしの願いは2つとも叶ったの。
だから、あなたにお礼をしようと思って。
今度の依頼を受けて。
そうしたら、あなたは死よりも素晴らしい物に出会えるから―――

  
空間全体が真っ白に染まるほどの強烈な光を放ち、少女の姿は掻き消えた。




 おかしな夢だった。

 いままでに何千、何万と人を殺めてきたが、こんな夢を見たのは初めてだった。
 夢を見ようと見まいと、誰に何を言われようとも、俺は人々に死という名の宝を運び続ける。
 それが俺の存在価値なのだから。





「俺の船に乗らねェか?お宝目指して西へ東へ! 殺し屋よりも楽しいぜ」
 
 この男の言葉は何故か俺の心を騒がせる。
 死神と呼ばれた俺でも宝を手にするコトはできるのだろうか……?




「デッド、何してるの? 置いて行っちゃうよ!?」
 ようやく見つけた、死に勝る宝。
 失いたくない人々。
 宝となった仲間達の元へ歩き出したそのとき、一陣の風が吹いた。


――ねっ、あたしの言った通りだったでしょ?

 風に乗って、微かに楽しげな少女の声を聞いた気がした………。







お初なデッド。
デッドは好きなキャラなんですが
(元々デッド目当てでフルココを読み始めた私)
寡黙なので動かし難いです(涙)