アイ○ル





富士樹海に落ちた博士のカプセルを探し、CIAと死闘を繰り広げたナナシたち。
漸く目当てのじじいと、おまけでキャサリンをみつけ、CIAも追っ払ってほっと一息ついたのもつかの間。
全員合流したところで、津田島がいないことに気が付いた。
「津ーさんなら大丈夫だよ」
などと暢気なことを言って、捜すことなく帰ってしまった己を責めたところで全ては後の祭りだった。



 ダーリンが消息を絶って1週間以上。
 無事昏睡状態から覚めた奥様は、愛するダーリン津田島を探すため、あらゆる手を尽くしていました
 近所の電柱全てに尋ね人の張り紙はもちろんのこと、夜中に棒と懐中電灯を持って屋根の上や車の下などを探索。
 はては拡声器を使ってダーリンの名前を呼びながら町内一周してみたり。
 だけど結果は全て空振りです(当たり前)。
 一向に手がかりが掴めぬまま、奥様は四畳半一間のぼろ家で悶々とダーリンの帰りを待つ日々を過ごすしかありませんでした。

 すると、ある日のこと。

「ピン 、ポ〜ン」
 来客などほとんど無い、津田島家のチャイムが鳴らされたのです。
 ダーリンの写真を見つめてベソを掻いていた奥様はその音に驚き、正座したまま軽く1Mは飛び跳ねました。
 特徴のある鳴らし方に、奥様の心臓はドッキドキ。慌てて立ち上がり、バタバタと玄関に向かったのでした。

   バコン!

「津ーさん!?」
 アパート全体が揺らぐほどの勢いでドアを開けた奥様の目の前に居たのは……
「よぉ」
 あいかわらず全身をアルマーニで決めたダーリンです。
 さすがダーリン。数週間行方しれずだったというのに、その身だしなみには一分の隙もありません。
「つぅさぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜ん」
 うれしさのあまり涙と鼻水で顔面をくしゃくしゃにした奥様。
 愛するダーリンに抱きつこうとしたのですが……
「汚ねェ」
 すいっとダーリンに避けられてしまったのでした。
 勢い余った奥様は、そのまま正面の壁に激突。顔面を強打してしまいました。
「しどいよ……。しんふぁいしてたのに……」
 鼻を両手で押さえ、ダーリンの方に振り向いた奥様。
「クスクス」
 なにやらダーリンの斜め下から笑い声が聞こえます。
 不思議に思った奥様が視線をそちらに向けてみると、10才ぐらいの金髪少女が立っているではありませんか。
 少女は涙と鼻水にまみれた奥様の顔をみて
「やぁだ、へんな顔〜〜」
 とケタケタと笑い転げてます。
 さすが子供。無邪気を武器に、遠慮無い一言です。
「津ーさん……この子は……」
「あ? CIAから逃げ出したときについでに拾ったガキだ」
「ケイトよ、よろしくね」
 ケイトと名乗った少女は笑いを堪えながら、奥様に右手を差し出しました。
 奥様も握手をしようと右手をのばした時です。
 ケイトの袖口から、何かキラリとひかる物があらわれたのです。

   
カコォーン

 謎の物体は、いい音を立てて袖から床に落ちました。
 それは金属製らしい、直径5センチほどの銀色の球体でした。
「!?」
 ビックリして思わず手を引いてしまった奥様の目の前で、ケイトの袖からは次から次へと球体が出てきます。
 漸く落ちるのが止まったときには、床一面に球体が広がっていました。
 その数たるや、100個は軽く越えていそうです。
 これだけの物を、小さな体の中に一体どうやって隠していたのか……、マギー審司も真っ青になること間違いなしです。
「津ーさん……これ……なに?」
 奥様はおそるおそるダーリンに聞いてみました。
「あァ? これか?スフィアとか言う機密兵器だとよっ」
 そう言ってダーリンは足下のスフィアを一個軽く蹴飛ばしました。
 その途端、今まで単なる球体でしかなかったスフィアの半面が、鋭い歯のように開いたではありませんか。
「うわっ、わっ!?」
「便利そうだったから、逃げるときにこいつもついでにかっぱらって来た」
 CIAの魔の手から無事逃げ出した事だけでも凄いことなのに、ついでにCIAの秘蔵っ子と重要機密まで持って帰ってきたというのです。
 もの凄い事をさらりと言うダーリンに、奥様のお口はポカーンと開きっぱなし。
 転んでもただでは起きないダーリンのバイタリティに、ただただ感服です。
「ねェ、蓮司(れんじ)くん。アタシ、パフェが食べたい!!」
 ケイトは、そう言ってダーリンのスーツの裾を引っ張ります。
「下の名前で呼ぶなつってんだろうがっ」
 ダーリンは眉根を寄せ、ケイトを見下ろしました。
「え〜。友達はファーストネームで呼ぶのが当たり前よ?」
「呼ぶなっ」
「つまんないの……。じゃあ、ハスジくん。パフェ食べにいこっ♪」
「なんだそれは……」
「ファーストネームイヤなんでしょ? だから、ニックネーム」
「ぶっ殺すぞ、クソガキ」
 ダーリンはドスの利いた声でケイトをにらみつけました。
「凄んだって怖くないもん。早く行こうよ〜〜〜」
 ですがケイトはそんなダーリンを全く恐れません。あいかわらずダーリンの腕を引っ張り続けています。
 ダーリンの名前を、今初めて知った奥様。
 親しげな2人のやりとりに、入り込む隙間などありません。
 かやの外にされてしまった寂しい思いを抱きつつも、ただ呆然とダーリンと見つめることしか出来ません。
「仕方ねェな」
 そう言って小さな溜息を一つ付いたダーリン。ケイトに手を引かれるまま奥様に背を向けて、階段に向かって歩き始めました。
 が、2,3歩歩いたところで足を止めると、くるりと振り返りました。
「あ、いつでも使えるように、そいつら充電しておけよ」
 それだけ言い残し、ダーリンはケイトと共に階段を下りていってしまいました。

 四畳半一間のちっぽけなスイートルーム。
 そこにはダーリンの帰りをひたすら待ちわびていた奥様と、電気代をバカみたいに喰いそうなスフィアだけが残されたのでした。







ご 利 用 は 計 画 的 に 。

END






これまたはるかさんとのメッセで浮かんだネタ。
津ーさんがケイトをかばい始めてからというもの、
「最初とえらい変わってしもーて……」
とか思ってしまったのです。
そしてはるかさんとメッセでお話中、
「津ーさん、そのうちチワワみたいになったりして」
「それではナナシがあの中年なのですね(アイフル〜」
さすがはるかさん……、私のツボにガッツリ来ましたよ。
というわけで、あのCMのパロディです。